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いまの私も未来の地球も幸せに⑩ 古民家から取り出した古材を再利用する「古材リユース」の魅力

持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、古い家屋の解体時などに古材を取り出して再利用する「古材リユース」を取り上げます。

目次

  1. 新材にはない味わいがあり、強度も高い古材が注目されている
  2. 米国では「古材リユース」がDIY文化とともに普及している
  3. 日本でも古民家の解体時などに出る古材のリユースが活発になっている
  4. おわりに

新材にはない味わいがあり、強度も高い古材が注目されている

堂々とした太い梁や黒光りする大黒柱が美しい古民家。古民家が点在する里山の景観は、日本の原風景とも呼ばれます。

戦前の日本では、地元で採れた良質な木と木を、ボルトなどの金物を使わずに組み上げる「伝統構法」で家を建てていました。しかし、家を住み継ぐ文化が廃れたこと、少子高齢化による人口減少、伝統構法の技術を持つ職人の減少などから、こうした伝統的な建築手法による古民家は姿を消しつつあります。また、昔は家屋の解体を手作業で行って梁などの木材を再利用していましたが、現在は建設機械で取り壊すことが一般的です。

ところが、近年、戦前に建てられた古民家の建材の魅力が見直されています。

古い家屋の解体や改修を行う際に、まだ使える材として取り出された建材を「古材」と呼びます。日本における古材とは、おおむね戦前(昭和20年以前)に木組みで建物を構成する伝統構法により建てられた、いわゆる古民家に用いられた木材です。

戦前の建材は、国産の木材を時間をかけて自然乾燥していたため、粘り強さがあり強度が高く、木材の色や艶が美しく、室内の湿度を調整する効果に優れています。だから100年以上家屋を支えることができるのです。現存する世界最古の木造建築である法隆寺は1000年以上も建ち続けています。一方、戦後の建材は、人工的に乾燥させた木材が中心になったので自然乾燥した木材より寿命が短いと言われています。また安価な輸入材が普及して日本の林業が衰退したため、今では高品質な国産の木材は入手困難になりました。

そこで、経年による味わいなど新材にはない魅力があり、新材ではなかなか手に入らない高品質な木材が見つかることも多い古材が注目されています。

さらに、サステナビリティの観点からも、森から木材を切り出すのではなく、古民家から古材を取り出して再利用する必要性が高まっています。古材を再利用することで家屋の解体にともなう廃棄物を削減でき、成長の過程で炭素を蓄えた木材を廃棄せずに再利用することで温室効果ガス排出量を抑制できるためです。

米国では「古材リユース」がDIY文化とともに普及している

2016年、米西海岸のオレゴン州ポートランド市で、1916年以前に建てられた建造物または歴史的建造物は、「取り壊す」のではなく、建材の再利用を意図して「解体する」ことを義務付ける条例が制定されました。注1)

古材の再利用を目指す条例は全米の各都市に広がり、現在、米国では、古い家屋を解体して取り出した古材を再利用する「古材リユース」が普及しています。これらの古材は、再利用された木材を意味する「リクレイムドウッド(Reclaimed wood)」と呼ばれ、人気があります。

廃棄物削減、環境に優しい建築、歴史的な建築材料の保存などを目指す条例を制定し、古材リユースを推進しているオレゴン州ポートランド市をはじめとして、米国では次のような古材の回収・流通インフラが整ってきています。

GOOD WOOD
米オレゴン州ポートランド市のGOOD WOODは、ポートランド地域の歴史的建造物や古い家屋の解体に携わる解体事業者であり、森から切り出した木材ではなく古い家屋を解体して取り出した古材の加工や販売を行う古材専門ショップです。

ReBuilding Center
米オレゴン州ポートランド市のReBuilding Centerは、建材リサイクルによって環境問題の解決を目指す非営利団体が運営する、建材のリサイクルショップです。古い家屋の解体や改修時に回収された古材をはじめ、建具や家具など住宅に関するあらゆるリサイクル資材を販売しています。またリサイクル資材を使って自分で家づくりをするDIY(Do It Yourself)文化醸成のコミュニティ拠点でもあり、DIY技術を学ぶ多数の講座を開催するなど地域のDIYセンターとなっています。

このように、米国では市民が古材を気軽に入手できてDIY技術を学べる環境があるため、古材を再利用して自分で家づくりをするDIY文化が広がっています。

日本でも古民家の解体時などに出る古材のリユースが活発になっている

日本でも、建築における環境負荷軽減が強く求められるようになり、古材ならではの魅力が再発見される中で、古材リユースが活発になっています。

ReBuilding Center JAPAN
米オレゴン州ポートランド市にあるReBuilding Centerの日本版である長野県諏訪市のリビルディングセンタージャパンは、古材と古道具を販売する建材のリサイクルショップです。「家のつくり方、つかい方、なくなり方、を新しくする」というコンセプトを掲げ、家を住み継ぐという失われつつある文化を見つめ直し、資源を再利用するカルチャーを発信しています。古材から家具などを作るDIYワークショップも開催しています。

サルベージコウチ
高知県安芸市にあるサルベージコウチは、古民家の解体時などに引き取った古材や古家具をアップサイクルした家具の販売、古材を活かしたリノベーションなどを行っています。地域の古いモノ(建物、建材、雑貨、街並み、文化)の背景にある物語にスポットを当て、新たな価値を生み出すことを目指しています。

remark
神奈川県厚木市のremarkは、古材の加工販売や古材を使った店舗や商業施設の内装施工を行っています。100年以上前の銘木、木造駅舎で使われていた木、古い足場板など、ひとつひとつ個性やストーリーがある古い木材を蘇らせ、古材の魅力を生かした内装や家具を提案しています。remarkが手がけた古材の温かみのあるインテリアは、東京・渋谷のTRUNK(HOTEL)などで楽しむことができます。

ベイサイド迎賓館 神戸
ブライダル大手の株式会社テイクアンドギヴ・ニーズが運営する結婚式場「ベイサイド迎賓館神戸」では、建築現場で用いられてきた足場板をチャペル壁面の仕上げ材として再利用して、2023年にチャペルを全面リニューアルしました。新たなチャペルは、長年の使用によって生まれた表情のある木材が温かな空間を創出しており、木の良さや価値を再発見させる優れた建築・空間などを表彰する「ウッドデザイン賞2023」を受賞しています。また、同社が運営するアルモニーソルーナ表参道アルモニーアンブラッセイットハウスアーフェリーク白金ベイサイドパーク迎賓館千葉アクアガーデンテラス大阪でも、リニューアル時に古材を使用しています。

おわりに

長く住み継がれてきた古民家から取り出された古材には、かつての暮らしの温もりを湛えた味わいがあります。時を経た古材ならではの魅力に、あなたも触れてみませんか。

注1) https://www.epa.gov/sites/default/files/2018-05/documents/epa_webinar_april_2018.pdf

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