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いまの私も未来の地球も幸せに⑧ 使用済み漁網の資源循環で、海を壊す「ゴーストギア」発生を防ごう

持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、海洋環境を脅かす「ゴーストギア」問題を取り上げます。

目次

  1. 海を漂う捨てられた魚網が海洋生物の命を奪っている
  2. 使用済みの魚網がおしゃれなファッションに生まれ変わる
  3. 日本でも使用済みの魚網を資源として循環させる取り組みが始まっている
  4. おわりに

海を漂う捨てられた魚網が海洋生物の命を奪っている


海洋プラスチックごみを、知っていますか。

毎年、世界で1,100万トンのプラスチックごみが海洋に流出しており、2050年には海洋プラスチックごみの量が海にいる魚の量を上回ると予測されています。(注1)

適切に処理されなかったプラスチックごみが海へ流出することで、さまざまな問題が生じています。例えば、景観悪化、船舶航行や漁業の障害、漂流ごみの誤飲や絡まりによる海洋生物の死亡、マイクロプラスチックの食物連鎖による人体への影響などです。

なかでも海洋環境に深刻な被害を与えているのが、「ゴーストギア(漁具の幽霊)」と呼ばれる、紛失や投棄によって海に流出した漁網やロープです。海中を漂う漁網が幽霊のようだ、という意味のゴーストギア。海流などの影響で世界の海洋ごみが集まる“太平洋ごみベルト“では、プラスチックごみの約46%が魚網やロープなどの漁具です。(注2)その大半は耐久性のあるナイロン製やポリエチレン製で、半永久的に海中に残ります。

漁場に残された漁網は、海の生き物を捕獲し続け、その死骸が餌となって新たな漁獲物を呼び込んでしまう「ゴーストフィッシング」という現象を引き起こします。またウミガメ、海洋哺乳類、海鳥などが絡まるなどして、毎年多くの海洋生物が犠牲になっています。さらに、魚網が海底を引きずることで海底の植生や地形を破壊しています。

漁業者にとって生計を立てるために不可欠な漁網は、定期的に交換する必要があります。しかし漁網の廃棄には産業廃棄物処理費用がかかるため、海岸などに放置され海に流出することが少なくありません。

海洋プラスチックごみ問題では、これまで容器包装などの使い捨てプラスチック削減が焦点となり、世界各国で使い捨てプラスチックを段階的にゼロにする法制度が整ってきました。そして今、海を壊すゴーストギアの発生を防ぐために、廃棄漁網を回収・リサイクルする仕組みづくりが始まっています。

使用済みの魚網がおしゃれなファッションに生まれ変わる


世界に目を向けると、海の環境を守ろうと立ち上がった起業家たちが、ゴーストギアを減らすために、廃棄魚網を循環型のプラスチック素材としてリサイクルするシステムを築いています。

代表的なのが、3人のサーファーが立ち上げた米ベンチャー企業のブレオ社です。ブレオ社は、南米の漁業コミュニティから使用済みの漁網を回収し、廃棄魚網を100%リサイクルした原料「ネットプラス」を開発しました。そして、米アウトドア衣料メーカーのパタゴニアと組んで事業を拡大し、パタゴニアの帽子のつばやジャケットの生地などに100%魚網原料の「ネットプラス」素材を供給しています。
「ネットプラス」は、バージンプラスチックを再生プラスチックに置き換えて石油使用を減らし、廃棄魚網を買い上げて漁業者の収入向上を実現し、漁網回収・リサイクルシステムを築くことでゴーストギア発生を予防しています。

またドイツのBRACENETは、海洋環境保護団体と連携して海に捨てられた漁網を回収し、ブレスレット、リング、メッシュバッグなどのファッションアイテムに生まれ変わらせています。そして商品販売からの寄付によって、海洋環境保護団体のゴーストギア回収を支援しています。

日本でも使用済みの魚網を資源として循環させる取り組みが始まっている

(TRUNK HOTELの取組み)
日本でも、ゴーストギア発生を予防するために、使用済みの漁網を回収してリサイクル素材として循環させる取り組みが始まっています。

例えば、海洋ごみ対策の企業間連携プラットフォームである一般社団法人ALLIANCE FOR THE BLUEは、廃棄漁網を再生プラスチック資源として循環させる仕組みづくりを目指して、多様な企業をつないで漁網再生素材を製品化する「Product for the Blue」という商品開発プロジェクトを行っています。Product for the Blueで生まれた商品には、豊岡鞄「海を守る漁網再生素材の鞄」やコクヨ「NEO CRITZ From Fishing Nets Recycling」などがあり、その売上の一部は日本の海洋環境保全活動へ寄付されます。

また、WWFジャパンと宮城県気仙沼市が共同でゴーストギア発生を予防する「地域と一緒に!漁網の未来プロジェクト」では、漁業者による使用済み漁網の回収・リサイクルテストと併せて、ゴーストギア問題を地元の漁具管理から考える海洋教育プログラムを学校教育で行い、地域全体で使用済み漁網の回収・リサイクルを推進しています。

このほか、様々な団体やアーティストによって、ゴーストギアをはじめとする海洋ごみ問題を楽しく学ぶアートイベントが各地で開催されています。

株式会社テクノラボによる、海洋プラスチックごみを工芸品に生まれ変わらせるプロジェクト「buøy」は、ビーチクリーン活動で集めた海洋プラスチックごみでオリジナルキーホルダーを作るワークショップを東京・神奈川で開催しています。また、福岡を拠点に活動するアーティストしばたみなみ氏は、海ごみアート展示やビーチクリーン活動と掛け合わせたアートワークショップを行っています。そして、様々なアートワークを展示している東京・渋谷のTRUNK HOTELでは、2022年に、海洋漂流プラスチックを材料としてアーティストが制作したランプシェード「The Transient Beauty 球状星団」が展示されました。

おわりに

半永久的に海を漂い、美しい海を壊し続けるゴーストギア。私たちが消費者として、漁網再生素材を選ぶことが、廃棄漁網の資源循環を促し、海を守ることに繋がります。まずは海洋ごみについて知るイベントに参加するなど、あなたも一歩踏み出してみませんか。

(注1),(注2)WWF(2020)「ゴーストギアの根絶に向けて 最も危険な海洋プラスチックごみ」p.10

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